バックヤードこそクリエイティブに。
スニーカー愛が革新を支える「atmos」
オンラインとリアル店舗の両軸で、一般層・マニアともに高い支持を受けるスニーカーセレクトショップ「atmos」 atmosの社員は、店舗も合わせると200人弱。店舗がものすごい勢いで増えているという。メインのコンセプトは「都市生活者のライフスタイルにスニーカーを取り入れる」こと。通勤時にもスニーカーを、と提案している。 。ナショナルブランドとのコラボレーションやエクスクルーシブモデルなど、東京のスニーカーカルチャーを世界に向けて発信しているショップだ。
その歴史は2002年、東京・原宿のヘッドショップのオープンに始まり、以後渋谷などに店舗を拡大。オンラインショップも2001年にオープンし、現在は11サイトの体制で最先端のスニーカーやウェアを発信し続けている。そんな「atmos」のバックヤードを取材した。
まずお話を伺ったのは、Web / ECビジネス事業部 カスタマーサービス課・課長、塩澤拓也さん。自身も大のスニーカー好きだという。フランスに住んでいた頃にヨーロッパのスニーカー事情を知り 、日本とは全く違う靴に人気がある街など、地域によって全く違うスニーカー文化を持っていることに驚いたという。Web / EC事業部は15名ほどの体制。Webでの商品公開、画像加工、マスター登録などが主な業務で、顧客対応・受注はそのうちの6名が行っている。
「atmos」のバックヤードの特徴は、外部パートナーとのチームワークにある。在庫管理から電話やメールの対応まで、外部スタッフのチームとタッグを組んでオペレーションを行っている。
「パートナー企業との協業理由は、弊社の代表が、事務所で作業している人間が考えなくてはならないのは、どうやったらお客様により良いサービスをご提供できるのか、また売り上げを延ばしていけるのか、という方針を掲げていることが大きいです」
それぞれのスタッフが、考える「頭」を持って仕事をしてほしい。そうした思いから、簡素化できる部分、システム化できる部分は削って、さらに上の段階にスタッフが注力できる。そうした体制になるべく、少しずつ改革を進めている状況だという。
「こうした取り組みは4年前から始まりました。まずは、自社で行っていた在庫管理を倉庫のほうで入荷から保管、出荷までお願いできるようになった。そこから少しずつ、次は何を効率化できるのかという試行錯誤を経て、やっと昨年からお問い合わせの部分もお願いすることができるようになったんです」
ブランドのエクスクルーシブ・アイテムも多く取り扱っている。
お問い合わせを担当しているのは、カスタマーサポート業務専門のプロフェッショナル。だがatmosで扱う商品はファッションという特性上、専門知識が必要とされる。その点には苦労があった。
「弊社で扱う商材や仕組みがちょっと特殊なので、ただお電話が来たら受けてくださいというお願いができないような状況でした。専門知識が必要なお問い合わせは、直接我々が答えたほうが早い。そこで今効率的にマニュアルを作るために、問い合わせ内容をデータ化しているんです。例えば、いつ届きますか?という納期に関するお問い合わせは全体の何%ぐらいあるのか、不良品のお問合わせは何%なのか。現状、納期に関するお問い合わせが全体の半数を占めています」
あくまでも外部スタッフを「アウトソーシング」と考えるのではなく「パートナー」 atmosでは商品撮影もプロのカメラマンにパートナーとして参加していただき、本社近くに構えた撮影専門スペースで撮影している。ファッションにおいて写真は重要。売り上げにも影響する。「長く関係を続けているカメラマンさんなので、こちらの求めるイメージにぴったりの写真を撮ってくださいます」 として同じ方向を向いて仕事をするのがatmosのやり方だ。
「日々メールや電話でやりとりはしていますが、月に一回顔を合わせて状況を報告しあう定例会を開催しています。お互いに、電話だと伝わらないと思って言いだせないこともありますから。そういった意味では、いろんな部門の方と話をしつつ、変えていくという感じの方が強いですね。少しずつ、信頼関係を築いています」
効率化は受注においても推進されている。
「楽天市場やYahoo!ショッピング、LOHACO(ロハコ)や自社サイト等の受発注は僕らが管理しています。システムで全オーダーを確認して、集計した数字を倉庫さんにお願いする。その後は倉庫にないものはメーカーから取り寄せる、などの処理になるんですが、今はエクセルのツールを使って、ボタンを押すだけで発注が飛ぶようにしています。社内のスタッフでプログラマーがいるので、簡単な事だったらできるというので作ってもらいました」
現在は、店舗などの在庫も合わせて管理できるシステムを開発中。こうして効率化が進むatmosだが、数年前までは全て手作業で行っていたのだという。
「7年前までは、受発注作業を全て自分たちで、しかも手作業でやっていました。朝の9時に出勤して、その日のオーダーをマス目が振ってあるコピー用紙に手書きして、商品名と品番、サイズ、点数、というのを各お店にファックスして確認していたんです。全く終わらなくて、夜の9時から打ち合わせになったり、つらい状況が続いていました」
現場が疲弊してしまっては、いくら良い商品を仕入れても、良いお店にはならず、お客様に届くこともない。
「そんなアナログなやり方が完全に限界になって、在庫が確保できないことも良くありました。たくさんの人が辞めていったし、入社したスタッフも「僕ら毎日謝っているだけですよね」と言って次の日から来なくなったり...。そこで社内での変革の機運が上がったということはあります」
現在は効率化によって残業や休日出勤もなくなり、社内の雰囲気も良くなっそうだ。
お客様のためのチャレンジングな在庫管理
atmosの強みは、マニアも唸る通なラインナップ。その品揃えを実現するために、メーカー、倉庫 倉庫があるのは埼玉県の上尾市。ファッションに特化した倉庫だ。9時から開いている。ビル一棟が倉庫になっており、保管する場所と出荷する場所を兼ねていて、宅配便の簡易営業所もあるほど。 、店舗などをまたがる在庫を管理しなければならない。
「在庫数は、基本的にはシーズン前に展示会などでオーダーしているものです。その在庫がメーカーにあるのか、倉庫にあるのか。宝探し感がありますね(笑)。流れとしては注文データを見て、まず倉庫を確認し、倉庫に無いものはメーカーさんからお取り寄せさせて頂いて出荷をする。また自社店舗の在庫は、営業終了後に有効な在庫をクロスモールで確定させる。店舗の商品は回収して、倉庫から出荷しています」
メーカーと店舗など、複数箇所での在庫管理はリスクが伴う。ここまでチャレンジしているECサイトは稀有だ。あえてバックヤードが大変な方を選んでいる、その理由とは何だろう?
「やはりお客様のためというか、より多くの方に見てもらって、お客様がより注文しやすいところで注文して欲しい。楽天市場の会員さんは楽天市場で注文されるでしょうし、Yahoo!ショッピングの会員さんだったらYahoo!ショッピングで注文されますよね。そこで、出来るだけ商品をご用意できるように、その方法を考えようというのが弊社の方針なんです」
営業終了後に店舗の在庫を追加することも、実際の売上につながっているというが、最初は店舗から大反対を受けた。
「店舗からも、Webからも反対を受けました。売れるものはお店に置かせてださい、という店舗側の思いと、お店が22時に閉店するまで対応しなくちゃいけないのか、というWebの体制と、両側から。そこでシステム的に自動で在庫数を吸い上げるプログラムを作り、今は自動化しています。店舗でもすごく協力的な体制ができました」
社内の工夫で売上が上がり、さらに顧客の満足度も増えた。塩澤さんのやりがいも大きくなった。
「お客様から「探していた物が買えました」というお声をいただくことが嬉しいし、やりがいなんです。ただデータをやり取りしてお客様に出荷して、メールを送って、だったら単なる作業になる。それは仕事ではないです。より頭を使って、考えて、工夫して、改善してというのをできる会社だと思います」
スニーカー好きが集まるバックヤード
また現場に携わるスタッフとして、Web / ECビジネス事業部 カスタマーサービス課スタッフの木村将太さんに話を聞いた。木村さんの担当は受注業務。やはり、かなりのスニーカー好きだ 。オフィシャルサイトの「アトモストーキョー.com」をメインに担当している。
木村さんの入社は四年前。店舗希望で入社したが、Web事業部に配属された。インターネットの仕事は初めてだったという。
「一日の流れは、9時半に出社をして、受注データのチェックと、ページビューの平均などのデータのチェックと報告を行います。それをもとに、ユーザーの入り口はどこなのか、この商品が多く見られているから目立つところに置こう、というような調整をしています。そういったデータを即日サイトに反映できるようになるのが今後の課題ですね」
迅速なフィードバックが売上に直結するのがECサイトの面白いところだ。
「次は問い合わせ対応です。オフィシャルサイトなので、商品の発売時期や、商品そのものに対するお問い合わせも、他のモールさんよりも多いんです 。お客様のほうが全然僕らより詳しかったりするので(笑)。対応に関しては、お客様対応のステータスや回答をスタッフで共有してノウハウをためています」
繁忙期はクリスマス。その時期には、クリスマスに間に合わないというクレームや、汚れがあって渡せない、などの対応が増えるという。
「間に合わなくて恋人にフラれてしまった、というクレームをいただいたことがあり、心が痛みました。スニーカーのギフトは、男性と女性の比率は同じくらいです。期日があるものなので、気を使いますね」
atmosの営業日は月曜から土曜日まで。シフト制の出勤。atmosのバックヤードは、チーム感も強く、一人一人の個性を認める風土がある。
「結構変わった人が多くて個性が強くなっているのかなと思います(笑)。基本的に雰囲気はいいですね。みんな靴が好きなので、発売される靴の情報をみんなワイワイ言い合うのがすごく楽しいんです。それがやりがいになりますね」
スニーカーへの愛情あふれるスタッフたちの情熱が、atmosを支えているのだろう。
スニーカー文化を守れ
いま塩澤さんは、スニーカー文化にちょっとした危機感を持っている。これまで80年代のエアジョーダン、90年代のハイテクスニーカーなど、様々なスニーカーのブームが花開いてきたが、今の世代のスニーカー観はちょっと違っているという。
「atmosのセールスポイントは、他にはないものが揃っている、ということ。いま感じているのは、靴やスニーカーに強い思い入れを持つ若い世代があまりいないのではないか...ということなんです。スニーカーはあくまでファッションの一部であって、トータルのコーディネートのなかで機能するもの。僕ら30代のスニーカー好きは、とにかくスニーカー命で足首から上は気を使わないというような感じでしたので(笑)」
その理由は、リアル店舗だけでなく、インターネットによってファッションの選択肢が爆発的に増えたこと。今はネットに情報が溢れている時代だけに、atmosの情報発信もSNSが中心になっている。
「ファッションの情報の中心になっているのがSNSというのは間違いありません。セールの告知や人気商品の販売時期、抽選や先着順など先着順などの情報はSNSで発信して、それを見た人が店舗やWebに来てくれる」
リアル店舗とWebショップのあり方も、今後は変わってくるだろうと塩澤さんは語る。
「いま、atmosの店舗がすごく増えているんです。そうすると、オンラインショップの存在意義も変わってきます。僕の思う理想形としては、各都市にある店舗で、例えば自社サイトでご注文いただいた方が最寄りの店舗でお受け取りするようなことも今後できるんじゃないかなと思っています」