自由だからこそ、自分で考えて動くことーー
社員からアイデアが湧き出る「壁紙屋本舗」のバックヤード
自分で壁紙を張替えしたい!と思っても、なかなか好みの壁紙が見つからない。そんな悩みを解決するのが、大阪に本拠地を構えるECショップ「壁紙屋本舗」だ。シンプル柄からグラフィカルな柄までの幅広いラインナップ、手頃な価格に加え、貼り方などの施工方法の紹介などきめ細かいサービスで人気を得ている。その一方で、「全人類職人化計画」というスローガンのもと、自主企画のマーケットやワークショップなど、日本では馴染みが薄い壁紙文化をメジャーにするための様々な取り組みが行われている。
今回は、大阪・大正区にあるショールーム兼本社を訪れ、バックヤードの方に裏側をお伺いした。
最初に話を聞いたのは、EC企画運営をしているくきさん。久木さんは入社4年目。ロジスティック部で出荷と受注とカスタマーをしていたが、今年、企画部に移った。現在はメルマガやSNS系の発信を担当している。
壁紙屋本舗がショップを出すのは、楽天市場、ヤフーショッピング、アマゾンと自社公式サイト。
「楽天市場とヤフーショッピングでは客層が違うんです。楽天は30代から40代の女性で、ハンドメイドが好きな方。カワイイ壁紙を好む方が多くて。一方のヤフーショッピングは比較的男性が多いので、男性が好きなものを打ち出しています。例えば、床材はヤフーショッピングの方を充実させているんです」
久木さんの朝は、デザインチームのミーティングに参加(予定の共有会)など、打ち合わせから始まる。その後メルマガの作成や、商品のページチェックを行う。SEO対策のキーワード、タグ、紹介テキストなどの作業。その後は資料を作ったり、ミーティングで一日が過ぎる。壁紙屋本舗では、販売サイトごとのSNS担当が全員違うので、その情報共有も必要だ。
壁紙屋本舗のメルマガの登録数は14万人。かつてはデザインチームのメンバーがオリジナル漫画を掲載し、人気を集めていた。現在は久木さんがメルマガを担当している。
「わたしは漫画が描けないので、文体で勝負しています。オタクっぽいタイトルにしたり、時事ネタを入れたり、毎日違う内容に工夫しているんです。年代や性別などでセグメントして、より響くようなメルマガ を心がけています」
メルマガの他にも、積極的にWebで発信をしている。先日はヤフーショッピングでライブ配信を行った。
「ちゃぶ台に座っておしゃべりしてから、ひたすら壁紙を貼るという内容です(笑)。モール内でライブ配信ができるので、チャレンジしてみました。お客様からもコメントがもらえて、電話とは違うコミュニケーションが取れるのが嬉しかったですね」
そういったユニークな取り組みが自由に出来るのは、壁紙屋本舗に「おもろいことを全力でやる」という精神が貫かれているから。社内でも、部署の垣根を越えて話し合いが持たれている。
「毎週、受注チームと「ああだこうだ会」を開いて1時間くらい話しています。他店のECサイトを見て良い点を見つけたという意見を交換したり。他には、お客様からどんな意見が寄せられたのかを聞いて、どんな企画が行われているのかを話して。受注チームから吸い上げた意見をデザインチームに投げているんです。私達は、お客様の声を企画に届けるという伝書鳩の役割りですね」
ミーティングは、対面でやるのが大事。「じっくり話をすることでわかることもある」と語る。
おもろい企画はやる
壁紙屋本舗では、企画担当以外のアイデアでも、社員の投票を募り、6割以上の賛同を得た「おもろい企画」は商品化に向かって進んでいくという制度がある。
定期的に全社員の前で企画者がアイディアを発表する会議
「みんな面白いことを探し求めているんです。パートでも社員でも関係なく、企画があれば商品化に向けて進められます」
久木さんのアイデアで発売されたのが、「シャウエン」という水性ペンキ。壁紙の上から塗れる、モロッコのシャウエンをイメージしたブルーカラーのペンキだ。
「夏も近いので涼しいペンキを出そうということで企画しました。いろんなペンキを集めて、納得いくまで混ぜて色を決めるんです。デザインチームの助言ももらったりして。撮影にはスタイリストさんにも来てもらって、雰囲気のある写真を撮影しました」
商品化されてうれしかったのは、お客さまの反応が聞こえるようになったこと。
「EC企画だと裏方の裏方になってしまうので、お客さんの声が聞こえないのが悩みだったんですが、企画して発売してみると”こういう色がほしかった”などの反応をいただいて。それがすごくやりがいになりました」
バックヤードも企画に参加できることで、モチベーションが上がる。
「みんなが一から作っているのを見ているので、商品が売れていくのを見るともっとがんばろうと思います」
壁紙屋本舗では、体験型イベント「大正クラフトライフマーケット」を主催している。アウトレットやDIY用品などのマーケット・ワークショップ・スペシャルゲストを招いてのトークイベント、フードなど盛りだくさんの企画を予定している。
「いまは、出店者の声をかけていって交渉をしている段階です。テントをいっぱい並べてボルダリングしたり、大人も子どもも楽しめるイベントになっています。準備は大変だけど、毎年すごくたくさんの方が来てくれる、社員みんなが楽しみにしているイベントです」
社員だけでなく、お客さんも巻き込んで楽しみを作ろうとしている、壁紙屋本舗の精神が伺えるイベントだ。
DIY熱が冷めないうちに商品を届ける
続いてお話を伺ったのは、ロジスティックと印刷担当の高橋さん。印刷は完全受注生産だ。印刷の担当は現在3人、ロジスティックは20人ほど。
「印刷で難しいのが、壁紙が200種類あるんですが、機械の都合で、偶数で出さないといけないこと。多めに出したり、調整しています」
受注のメインは糊付きの壁紙。機械で糊をつけて出荷するのだが、一日に塗れるマックスが5000メートルまでなので、メートル数と本数を考えて計算するのが大変だ。
「繁忙期は連休前や大掃除の前です。お盆前には特に受注が多いですね。そこが勝負どころで、4台の機械でどうやって対応できるのかを考えなければなりません。在庫があるものはその日に送ったり、急ぎのお客様を優先したり...」
通販のお客様の変わらない願いは、「注文してすぐに商品が欲しい」ということ。
「注文したら、すぐに届くのが当たり前の世の中ですが、注文をもらってから作業するので、即日対応が難しい商品なんです。でも、DIYというのは、「やりたい!」と思ってから時間が開くとモチベーションが下がってしまうので...そこをできるだけ、熱が冷めないうちにお届けしたいと思っています」
現在、ロジスティックは、iPad で出荷管理を行っている。ブランド全体で2万点以上がラインナップしており、一日に出荷する量で、多い時は宅急便だけで800件。メール便も含めると1000件にもなる。作業は女性がメインで、30メートル巻で18キロくらいに なる壁紙を軽々と持ち上げているのが驚きだ。
誰に何を伝えたいか
高橋さんが入社したのは6年前のこと。ひと目見て壁紙だとはわからないほどのクオリティに心を打たれた。入社してから、社長に一貫して言われているのが、「誰に何を伝えたいか」ということだという。
「ただ作ってWebで公開するだけではだめ。誰に何を伝えたいのか、それを常に考えろと言われます。スタッフが一緒に考えて作って、社長にプレゼンして「ええやん」と言ってもらえたら商品化できる。トップダウンも必要だけど、社長がすべてを作るんじゃなくて、スタッフが作ってやっていくという精神がうちの会社にはあるんです」
誰が考えても、誰が企画してもいい。枠にとらわれない のが、壁紙屋本舗の精神だ。
「自分の中で考えて、伝えられたらOKなんです。デザインチーム内で企画することもありますが、他の企画内容も月例会議などで話し合います」
よくあるご質問は記事化
最後にお話を伺ったのは、カスタマー担当の土井さん。電話、メールでのカスタマーサポートのほか、店舗での接客も担当している。新入社員の教育も担当している。
土井さんのスケジュールは、8時半に出社して朝礼。その後メールのチェック、振り分け。
「カスタマーのメールを最初にやります。他には新人のメールのチェックや電話の応対など。昨年からチャットにも対応しているので、対応できる時間には窓口を開けています」
チャットを導入した感想は、「すごく便利」ということ。
「チャットはすごく便利ですね。お客様が聞きたいことを聞けるし、注文にも繋がっています。電話口で説明するのが難しい、ページのURLを送ることもできますから便利です」
カスタマーサービスで多く寄せられる質問は?
「納期が最も多く、他にはこんなところに貼りたいんだけどどうすればいいのか、サイズは図ったけどどうやって貼っていいかわからない、家にあるものと同じものが欲しいなどの質問をいただきます」
また、壁紙屋本舗では「壁紙探偵」というサービスも行っている。壁紙の切れ端を送ってもらい、同じものを探すサービスだ。カスタマーサービスには、幅広い知識が求められる。
「1日に2、3件あって、カスタマーが対応しています。慣れてくると、わかってきますよ」
土井さんの前職は、リフォームの施工管理の営業だったという。
「その時の経験が、今も役に立っています。難しい質問は、「絶対」できるかと聞かれること。お家によっていろいろ違いがあるので、絶対剥がれない壁紙やペンキを教えてと言われるのは難しいですね」
カスタマー担当は現在5名。「電話の回線の数に、出る人の数が追いついていない」と笑う。カスタマーには新人も多いので、チーム内でも工夫しているという。
「お客様の声を記事 にして、社内で閲覧して、誰でも答えられるようにしています。よくある細かいお問い合わせにもすぐに対応出来るようになるために、デザインチームを巻き込んで「虎の巻」を作っているんです。よくある質問を検証して、記事にして、WEBで公開しています」
「昔は発送ミスや出荷もれが多かったんです。二重チェックで品番を読み上げるなどの工夫をすることで、出荷ミスが減りました。昔は一日一件はミスがあったのに、今は月に数件になったんです。ゼロを目指して頑張っています」
話がしやすい環境がある
土井さんが語る社内の環境は、「自分から発信しないと埋もれる」ということ。
「社長にも店長にも話がしやすい環境なんですが、逆に、仕事を振られるのをじっと待っていると埋もれてしまいます。私がやっていることも、自分からやりたいといって生まれたものばかりです」
社長がよく言うことに、「お客様が聞きたいことを答えるのではなく、なぜ聞いてるのかを考えろ」という言葉がある。
「その人がどうしてそのことを聞いているのか、わからない状態で答えているとクレームに繋がります。カスタマーだからといって、聞かれたことだけに答えていると、答えになってないことがあるんです。だから、こちらから聞かなくてはいけない。「どうして言っているのか」を考える力が求められます」
この会社で大切にされるのは、「言われたことをやるんじゃなくて、自分で考えて動けること」。
「いつも「よろしく!」って丸投げされて、調べながらやっています」
と笑う土井さん。新しいことは、同僚に「一緒にやろう」と声をかけてチャレンジしていく、
「誰が何に強いとわかっているので、「これはあの人にお願いしよう」と巻き込みやすい環境があります。みんな、新しいことには積極的だし、すごく協力的なんです」
ちなみに、お子さんがいる土井さん。こどもが生まれたばかりの頃は子連れ出社し、社内の託児所で世話をしながら仕事をしていたという。
「今も5時半で残業なしで帰れるので、家庭と仕事の両立ができています」
と語る土井さん。プライベートも仕事も、充実しているようだ。