目指すはお祭りグッズのファミレス的存在!YouTuber社長率いる「祭すみたや」
静岡県浜松市は、一年を通じて豊富なお祭りが開催されている土地。地元の人がお祭りに入れる気合も大変なもので、地域によって様々な違いがあるという。そんな浜松市で昭和二十二年創業の老舗、「祭すみたや」はお祭りに必要な地下足袋、股引、腹掛からダボシャツ、扇子などの衣料品、装身具などのグッズを販売する専門店。
全国でも珍しい、一年中お祭り用品だけを扱う老舗専門店だ。お祭りシーズンには店舗に一日五千人を超えるお客様が来店するほか、オンラインショップでは6,000アイテム以上を揃え、創業70年間で蓄積した圧倒的なお祭り知識で他店を圧倒する。そして、3代目店主自らが運営・企画・出演するYouTubeチャンネル「祭すみたやチャンネル 」でも知られる。
このユニークな店舗について、バックヤード・スタッフの動画プロデューサー 伊代田竜志さんに話を聞いた。
出社は9時。リアル店舗の開店準備を行い、10時に店舗が開店。リアル店舗とネット店舗のスタッフは厳密な区別はしておらず、忙しい時はヘルプに回る時もある。
その後、お昼までに出荷とメール対応。祭すみたやが扱う“お祭りグッズ”の特徴として繁忙期がはっきり別れていることがある。
「繁忙期は3月、4月とゴールデンウィーク、7月〜9月ですね。夏には白い服がよく売れます」
お祭りは、はっきり時期が決まっているもの。「あす楽」を正午に設定していることもあり、繁忙期にはお昼までに追加の注文が大量に入っている。
「お問い合わせはとにかく納期のことが多いですね。期日は決まっていることなので、『今週末使うので早く届けてほしい』という要望が圧倒的です。あまりにもギリギリの場合は保証ができないので、お断りすることもあります」
その他、多いのが“使い方がわからない” “着方がわからない”というもの。同じ用途でも形の違うものがあったり、サイズが合わなかったり…着慣れている人が少ないものなので、だいたいの返品は受け付けているという。
「こだわる人は毎年一式揃えることもありますし、店舗ではお客様に生地を送っていただいて、特注品で作ったりしています」
祭すみたやでは、お祭りグッズを販売するだけでなく、自社オリジナルブランドの企画・制作・販売も行っている。需要に供給が追いつかず、売り逃しという悔しい思いをしたことがきっかけだったという。
「昨年9月に“浜松縫製 ”という自社工場を立ち上げました。お祭り用品は特殊ですし、いま和裁ができる作り手さんも減少しているので、外注だと確保するのが難しいんです。一つからやってくれる人、となると自社で作るしかないんですよね」
祭すみたやのオリジナルグッズは、ただのお祭りグッズではなく、一工夫あるアイデア商品。中でも伸縮性があって活動的なお祭りにぴったりの、ストレッチのパンツは人気商品だ。
「何年も前から試作して、実際に着用してお祭りに参加するなどして試しています。半日着てみないと、お客様が感じる着心地は分からないので。ストレッチパンツは来年新色の展開も予定しています」
伊代田さんのお仕事で特殊なのが、プロモーション映像の撮影・編集も手がけていること。普通のバックヤードではなかなかない仕事だが、実は伊代田さんは元映像関係の仕事についていた 社長とはもともと飲み仲間。「これからはネットは動画の時代だよ、と誘ってもらったんです」 ので、映像作りはプロなのだ。
「祭すみたや」の名物であるYouTubeチャンネルを、”おしんちゃん”のニックネームで親しまれている社長の中川晋介氏と共に運営している。この動画はプロモーションだけでなく、実際の業務にもかなり役立っているそうだ。
「お客様から良く寄せられるお問い合わせを、動画にして公開しています。そうすることでお電話で長々と説明しなくても、見るだけでわかってもらえる。帯の結び方、ももひきの履き方など、お問い合わせを頂いたその時に『撮っちゃおう』と思い立って作っちゃうのがポイントなんです。後でやろうとすると、面倒になってしまいますから。iPhoneの動画でもいいし、どんなに忙しくても、ぱぱっとやってしまうと、後からすごく助けられることが多いです」
ちょっとした和楽器の音を伝えるのに、それまでは受話器の前で鳴らしてたんです。
YouTube動画を作るのは、実はお問い合わせ対応の時間節約のためでもある。メールにおいても定型文を作るなどの工夫をしているが、見て分かりやすい動画の効果は絶大だそう。 動画を見られない人のためにもノウハウページを作っている。
「YouTube動画を始めたのは社長なんです。社長のアンテナが高くって、デジタルなことにすごく強い。広告を買うよりも、自分たちのブログやSNS、動画で発信していこうというのがうちのPR方針です」
店舗のダイレクトメールやチラシも「紙代がもったいない」と断言。テレビよりもYouTube、ダイレクトメールよりもLINE@。デジタルによって、アナログよりも早い情報発信を目指している。
「お客様にご注文いただく端末も、7:3〜8:2の割合で、ほとんどがスマホです」
と語る伊代田さん。時代とともにお客さんの購買方法も変わっているという。
「リアル店舗とネットの売上の割合については今は五分五分ぐらいでしょうか。ご近所の方でもネット経由で買う方がすごく増えています」
祭すみたやでは年々売上をアップさせているが、お祭りに参加する人自体が減っている状況から、楽観的ではいられない。
「参加する子どもは増えているんですが、もっと気軽にお祭りに参加できる雰囲気を作っていきたいですね。私たちはお祭り用品が欲しいと思った時に気軽にアクセスできるファミレスのような存在 になりたいんです」
お祭り用品を購入する敷居を下げることで、お祭り文化そのものを盛り上げたい。そんな願いが祭すみたやの企業理念にある。
「店舗には、ネットを見てわざわざ青森や八丈島のような遠いところから訪ねて来てくれる方もいれば、観光バスで訪れてくれる方もいます。うれしいですね」
祭すみたやのネット店舗の評価は高い。「対応が早い」というレビューが多く寄せられている。
「大阪まで商品を持っていったことがあります」
「バックヤードのマニュアル化はできませんが、メールはテンプレを活用して質問には迅速にお答えできるようにしています。「出荷できない場合は連絡します」というように。やっぱり返事が来ると安心するものですから。もちろん感情的になるお客様もいらっしゃるのですが、わたしたちは感情的にならないように、しかし淡白過ぎない対応 を心がけています」
動画やSNSを活用したプロモーション、自社製品による売り逃し機会の防止、そして迅速な顧客対応、、、「祭すみたや」の独創的な経営の秘密が、バックヤードにもそこかしこに見受けられた。
お祭りが大好きだから楽しい!
浜松市で独創的な経営を続ける「祭すみたや」。より具体的な現場作業の話を、受注、ピッキング、梱包を手がける受注・カスタマー担当 山本由佳利さんにお伺いした。山本さんは地元・浜松の出身。
「パートで入って5年、社員になって3年くらいです。浜松はお祭りが盛んなこともあって、個人的にもお祭りが大好き。毎日、こんな商品もあるんだ!って楽しくてしょうがないです。毎日同じ仕事だけど、嫌だと思わないんですよね。」
「みんな仲が良くて、ミスが出たらみんなでカバーするし、その場で話して解決しちゃいます。普段から会話がすごく多いのでコミュニケーションが取れているんですよ。」
仕事をしていてうれしい瞬間は、「取り寄せ商品の入荷と出荷ピッキングの数がぴったり合った時」。数がずれるとやり直しになってしまうのはどこでも同じこと。
「メーカーに取り寄せの商品が、先方で「ない」となってしまうと欠品連絡をお客さんにしなければなりません。それが辛いですね」
山本さんの出勤は9時半。お掃除から始まって、受注処理、自社倉庫のピッキング、在庫がないものは発注、そして伝票出し、などをこなす。
「ピッキング自体は、アルバイトさんが行うことも多いので、ゴムと布の紐のように間違えがちなものは伝票に印を付けたり、やりやすい環境を作るようにしています」
ピッキングは一人で行うこともある。スタッフが仕事しやすい環境をお互いに気遣って作っていくのも祭すみたやの特徴だ。
動画が助けになる問い合わせ
問い合わせが最も多いのは、受注の前。「いつになりますか、いつ着きますか」という時期の問い合わせが多い。
「在庫があるものはなるべく早く発送しています。そうすると皆さん「早く送ってくれた」と喜んでくださるので、それがやりがい 「レビューで良いコメントがもらえるとうれしい。大変だけど、わたしこの仕事嫌いじゃないです」 になって」
お問い合わせにおいては、YouTube動画などでの説明がとても助けになっているという。 「『買い方がわからない』というお問い合わせのために、サイズの表を詳しく載せていたり。すごく問い合わせ対応でも助かっているんです。やっぱりお電話の対応だと、こちらの時間をすごく取られてしまうので…」
「この忙しいのに動画なんて撮りにいくの?!」って思うんですけど、お問い合わせのときには助かっています。同じ質問がたくさん来るんです、テープレコーダーで流しておきたいくらい(笑)。そういうものは、社長に頼んで動画にしてもらいます。
電話対応は負担が大きい業務。
「毎朝、『今日は穏やかに対応するぞ』と誓うんですが、大変だと声に出てしまうんです(笑)。お互いの思いが行き違ってしまって、お客様に納得していただけないや、こちらが感情的になってしまう場合は、一旦切ってかけなおすこともあります。問い合わせは、対応の中でもいちばん骨が折れる部分ではありますね」
それでもこの仕事が楽しいのは、やっぱりお祭りが好きだから。
「やっぱり地元で育ったこともありますし。この辺のお祭り全部に参加してるスタッフもいて、お祭りに参加したら何かしら商品に結びつけるようにしています。やっぱりお祭り用品にも流行があるので、参加してみないとわからないんですよね」
そう、伝統的なイメージがあるお祭りにも流行りがあるのだ!
「ただ仕入れをしていると、好き嫌いだけで判断してしまいがちですが、ちゃんとお祭りに参加して、時代のニーズを掴まないといけないんですよね。浜松では「目立ちたい、人と違うことをしたい」というモチベーションが強くて、女性は毎朝美容院で髪型をセットするくらい」
お祭り用品もファッション用品。「人と違うものを着るためにお金を出す」というニーズをいち早く捉えたのが、祭すみたやの強みだ。お祭りの伝統と、SNSや動画などを活用した新しい施策にも果敢に取り組む革新のバランスが、祭すみたやのビジネスを支えている。